蛾衣の京劇衣箱 -12ページ目

衣装のお値段。

今日は衣装のお値段についてのお話。

 

普通の洋服ならブランド物じゃなければ大体の値段は判ります。しかし京劇の衣装となるとこれは雲を掴むような話で勿論定価なんてものは存在しません。

衣装の種類(役柄)によって大きく変わりますしレベル(用途)によっても違います。劇迷(京劇ファン)が票房(ファンの集まる所)で着るのなら安い物で二桁元で凝った劇迷やちょっとした劇団で使うなら三桁元くらい一流どころの役者さんがオーダーするのは四桁元と言われてます。

 

聞いた話では梅蘭芳師の息子さんで最後の女形と言われている梅バオジュー師の衣装は10万元(約150万円)だそうです。まあ、日本舞踊の着物はさらに上を行くお値段なんで比較にはならないか。

 

で、値段の差は安い衣装は作りが雑、生地も化繊ですし刺繍も大雑把。三桁元になるとちょいと見には良く見えますが刺繍は機械刺繍で縁取りに隙間が多い物し生地のランクもイマイチです。四桁元で7000元(10万円)クラスになるとそれは素晴らしい衣装が手に入ります。刺繍は勿論手刺繍で熟練の女性が数ヶ月掛かって施されますし衣装自体の重さが違います。

 

10万円が高いか安いかは価値観の違いでしょうけど北京でタクシーの初乗りが10元(約150円)ですからある意味とても高価な物が安く手に入ると感じます。じゃあ何時着るの?と言われると困るのですけど高級ブランドの衣装みたいな物で機会は無くても所有していることで幸福感を味わえると答えることにしてます。(笑)

 

国内で作るとお幾らになるのかは判りませんね。作るところも無いし人件費を考えると50万円でもどうかな?人民元切り上げが何時なのか?それが一番気になる蛾衣でした。

デフォルメの産物

京劇1今回は衣装小物のデフォルメについて私の思いを語ります。

 

京劇の扮装は写実では無く極端に一部をデフォルメした物らしいですね。例えば将軍役が背負う旗は従う軍隊を現すとかマントを着た役は北方や寒い地方の役だとかリンズを着けた役は少数民族だとか知っていると結構面白いもんです。

 

有名な楊貴妃を主役にした「貴妃酔酒」を初めて見た時に楊貴妃の腰に下がっていた玉帯を見てなんじゃこりゃ?と思いました(笑)普通なら身体にフィットした帯だろうけど玉帯はフラフープ(古い!)のごとく腰にぶら下がる状態でした。不思議に思い聞いたところ役者さんの身体を大きく見せる為だとか。

 

水袖もびっくりでしたねえ。服装の袖から伸びた白い1mほどの布ですが本によると明代の服装の袖を誇張したものとあります。最初は違和感がありましたけど今はこれが無いと京劇と思えないから不思議。

 

日本舞踊では着物の袂を使って巧に踊りますが京劇でもそうで更に感情表現などを水袖を使って行うと教えてもらいました。男旦のごつい手を隠すにも良いらしいです。

 

後は馬鞭もあの房の付いた1本の鞭が舞台の上では馬を現すのです。これも最初は笑えましたが上手な演技だとそこに馬の姿が浮かんでくるのには驚きですね。1本の鞭に命を吹き込む役者さんて凄いなあって思いますよ。

理想と現実

自己紹介京劇の世界に足を踏み入れて男旦の真似事をやってます。

劇照(役者の扮装をして写真を撮る)や仮装パーティでその気になってますが簡単そうに見えて意外と難しいんですね、これが。

 

修行を積んだ役者さんと違って普通のおっさんですからポーズを取るだけでも一苦労、よろける、ふらつくなんてのは毎度で振り付けをしてもらっても手を直すと肩が上がり足を直すとへっぴり腰になり腰を直すと手が下がると言う悪循環になるんです(苦笑)

それに47年も男をやってると立ち振る舞い自体がさつになり優雅な仕草なんてのは望む方が無理なんですけどそこは役に成り切らなければ良い写真は撮れません。本当にお店泣かせの客だと思いますがそこはプロのお仕事でそれなりの写真を撮ってくれますけど己の不甲斐なさをヒシヒシと感じる訳です。

 

仮装パーティにも京劇の扮装をして出ますけど問題が山積みです。全て一人でこなさないといけないのです。プロがやると1時間もあれば完璧な扮装が出来上がるのですが素人の私は3時間以上掛かり出来栄えは反比例してそりゃあ酷いもんです。(涙)

 

上手く着付けをしたつもりでも時間がたてば着崩れをおこしスカートの裾は引きずりメイクはボロボロで見るも無残な姿と成り果てる。原因は階段の上り下りでスカートの裾を踏み付けるのが一つ。だって履いたことなんて無いもんね。裾を持つなんてのは男は知らないっす!

メイクだって女性は慣れてるでしょうけど京劇をやるまで口紅なんて塗ったこと無いっす!(あったら怖い)

 

仮装パーティはバーに集合してから友人達とレストランに向かい食事をしてまたバーに戻り歓談するんですけど合計6時間近く扮装姿のままなんで食事も出来ません。頭部を強烈に縛り上げてますので食べ物を噛むとコメカミが痛くなりますし衣装を汚すのが嫌(クリーニング不可)なんで汁が飛び散る系(スパゲッテイなど麺類)は却下です。京劇の扮装は重ね履きで紐で縛ってありますのでトイレも不可です。一度全部脱がないと無理でしょうね。なので飲まず食わずの修行みたいなもんですなあ(苦笑)

 

夢は京劇仲間とパーティに出て色々とお手伝いして貰って綺麗な扮装でお披露目することなんですけどやりたい扮装が穆桂英(女将軍)なんで旗を4本背負って長いリンズ(雉の尻尾)を着けた扮装(プロフィールの写真)なんですけどまず部屋から出るだけでも一苦労するだろうし旗は非常に邪魔で食事で椅子に座るのも無理っぽいし、バーで歓談中にも長いリンズが後ろの人の目を突いたりコップの中に入りそうで危ないと言う問題だらけの衣装なんでどうしようか?思案中です。誰か一緒に行かない?

どうなってるの?

楊貴妃4楊貴妃1え~っとこれで4回目の書き込みです。また記事の書き込みが上手く出来ませんでした。

どうやら画像を同時に載せられないようですねえ。コピーが残って良かった。

どうも新しくなってから使い勝手が判らず3度も書き込みが消えて少々やる気が失せつつある敦蛾衣です。(苦笑)

好きでやっている京劇ですが職場では秘密にしております。(笑)理由は女形やってるなんて言えば良くて奇人変人、最悪は変態呼ばわりされかねませんのです。別に悪い事でもないし恥じる事でも無く立派な古典芸術に心酔しているだけなんですけどマイナーな世界なんで認知されて無いんですね。 

大きく括れば女装なんでしょうが別に女性になりたいとは思って無いし(男の方が気楽)180度違う自分を楽しめる現状に満足してるんですが世間では女装癖とみなされるようですな。京劇自体本家の中国でも年配者の娯楽と言う認識で若者は見向きもしないようです。(現地ガイド談)更に男旦(女形)も絶滅危惧種?で北京の舞台でも男旦が登場すると会場がざわめくほどでした。そんな京劇ですから日本から来たおっさんが女役の劇照をすると言うと劇迷、劇装店、京劇関係者は一様に驚き写真を見せると綺麗と褒めてくれます。でも一般の中国人は鼻で笑いますねえ。きっと物好きな奴だなって感じでしょう(苦笑)

 

不思議なのは私の劇照写真を見せると男性より女性に受けが良い。日本では圧倒的に女性の劇迷(京劇ファン)の方が多いのですが男性の反応と女性の反応は見事に違います。やっぱり女性の方が懐が深いのでしょうか?共感してくれ応援してくれますね。(笑)で、意外に女性は男役の劇照が好きだったりします。

 

私は中国語が駄目なんで必ず通訳してくれる劇迷と劇照しに行くのですけど男の私が女役で劇照し通訳をしてくれる女性が男役で劇照すると言うあべこべのパターンが毎回です。(笑)

 

うーん、今回はまとまりの無い文章になってしまいました。自分でも何を言ってるのか?と思いますが早い話誰かに認めて貰いたい!んでしょうね(無理だけどね)今日の衣装は我が軍師チャン・チンホイ氏の情熱の結晶で劉店主様の自信作でもある旧型マンパオです。白鳳凰が今までの衣装には無い雰囲気を醸し出して劇照店主に「これは工芸品だ」と言わしめた1着です。

何故、衣装を作るか?

大きな理由が三つあります。

ひとつ目は他の人と同じが嫌いだからです。
劇照するのは北京ですがお店には貸し衣装がありますので自分の衣装を買う必要はありません。が、貸衣装で写真を撮ると言う事は他の人と同じ衣装で同じポーズで撮ると言う事になります。これが結構厳しいものでして特に私は色々とハンデを背負ってるもんで勝負にならんのですわ。(笑)
そこで個性とオリジナリティを出す為に衣装を作りそれを持ち込んで自分だけの劇照写真を撮るんです。

ふたつ目はサイズの問題です。ご存知でしょうが現在の京劇は女役は殆ど女性が演じますので劇照の女役=女性となり衣装も女性サイズなんです。まあ、現在は女性も背が高くなりましたが肩幅、胸囲などはやはり華奢なんですね。
そんな衣装を完璧なオヤジ体型の私が着れるものは数が限られてきます。
実際、予めお店に身長を伝えておいても当日着て見ると駄目だった衣装もありました。(涙)そうなるとやっぱりオーダーしか無いでしょう。

みっつ目は年に2度ほどパーティで仮装するんですけど目立つのが好きになったんで(笑)京劇の扮装はうってつけなんです。
それに派手なことこの上ないですから注目の的になります。何だかんだ言っても日本ではメジャーなジャンルでは無いですから詳しい人もいないからこんな私の扮装でも感心してくれるんですね(笑)
そうすると次を期待されます。これが結構辛いのです。前回と同じ衣装では薄っぺらいプライドが許しませんし「この衣装前に見た」と言われるのも嫌なんで毎回新しい衣装で参加してます。

友人の結婚披露宴に出席する女性の気持ちが少し判るね(苦笑)女性の衣装をチェックする目は厳しいからなあ。

綺麗と言う言葉

京劇を趣味にしてから綺麗と言う言葉が好きになった。
普段の生活ではまず使う事の無い言葉ですが衣装を手にして綺麗と思い刺繍を眺めて綺麗だと思う。
劇照をやって写真を見せるとお世辞でも綺麗と言われる。これは実物に比べてだと自戒するのですが言われて悪い気はしない。逆にこの言葉を言われたいが為に劇照に励むのかも知れない。

一般的に男性に対してこの言葉は使われることは無いですよねえ。
ましてやオッサンですからありえな~い形容詞ですなあ。(笑)
それが劇照すると結構綺麗と言われるんです。(赤面)
北京では「ピャオリャン」が心地よく響きますし好きな単語ですね。

京劇には沢山の綺麗があり衣装、刺繍、メイク、簪、台詞、動きなどどれも素敵なものですが私に欠けている美を補う為にこれからも綺麗な衣装や簪それと腕の良い劇照店を探して北京を彷徨うのでしょうね。
「ピャオリャン」と言われたい!それだけの為に。

今日の衣装は鉄鏡公主の旗装です。自分的には大好きな衣装なんですが馬面なのとこの扮装をすると身長が2mを超えるので似合わないなあ、、、と泣けてくるんです。劇照をやる以前はあと5センチ背が欲しいと思ってましたけど今は10センチ低くなりたいと我侭な事を願ったりしてます(笑)体重なら落とせるが身長はどうにも成らんねえ。

メイクの不思議

今日は京劇メイクの不思議について。
これまでの画像を見て頂ければ判るのですが中身は私本人なんですけど劇照した場所や日時で印象が変わってます。
勿論、本人の気持ちが表情に現れるのも事実なんですが劇照店の化粧師によっても随分変わります。
基本は京劇舞台メイクなんですが各店のポリシーがあってあくまでも舞台メイクに拘る店、劇照写真と言うことで写真写りに重点を置いたメイクをする店など色々です。
眉の位置やアイラインの曳き方などでがらりと印象が変わりますね。良く女性が今日はメイクのノリが悪いと言う話を聞きますが劇照をすると言っている意味が判る今日この頃。

今日の画像は白蛇の化身「白素貞」が断橋で着る衣装です。最初は「梅蘭芳」師の弟子で「杜近芳」師衣装を作る予定でしたが派手な衣装が良いと「劉秀栄」師のレプリカに変更したものです。薄い生地に見事な両面刺繍が施されていますね。

名前の由来

今回は私のHNの由来をご説明します。
京劇の世界に顔を出す(掲示板やHPの管理人へのメール)のにHNを考えることに。
当時は知ってる役者さんと言えばかの有名な「梅蘭芳」だけ。しかしそんなだいそれた名前を名乗るほど世間知らずではありません。
しかし、あまり変な名前もどうか?と思いました。次に浮かんだ候補が程蝶衣でした。しかし、これも誰かが先に使ってる可能性がありました。1994年の映画「覇王別姫」で主演のレスリーチャンが演じた主役の名前なんですよ。

それに私はレスリーに比べる事も憚られるオッサンですからこれも却下!
でも、憧れはありましたのでそれをもじって渾名から敦煌の敦を1字頂き蝶よりも醜い蛾が相応しいと判断(笑)蛾の衣を纏った者と言う意味を込めて敦蛾衣と名乗っている訳です。

今日の衣装は京劇で一番名の知られた梅蘭芳(メイランファン)師のレプリカでその昔実際に梅蘭芳師の衣装を作った劉玉鎖氏の手によるものです。これが原因で北京衣装ツアーなるものが勃発したとあるHPの管理人さまが私のせいにするんですけどそんな事は無いと思うのは私だけか?

衣装の好み

最初の頃はどの衣装を作るか?軍師チャンさんと随分検討しました。
何せこっちはズブの素人、軍師は筋金入りの京劇通で役者さんでもありますからその知識たるや尊敬に値します。
そんな月とスッポンの二人の検討ですから話は見事にすれ違う(笑)
まあ、最終的には私が決めるのですが毎度軍師にはご迷惑をお掛けしました。

どうしてもビジュアルから入った為、固定概念が強く好き嫌いがはっきり出てしまったんですね。衣装の素晴らしさを知っているチャンさんに的外れの質問ばかりしてましたしねえ。

今回の紹介は京劇の「貴妃酔酒」で楊貴妃が着る宮装と言う衣装ですが「この衣装は綺麗ですよ」とチャンさんが薦めてくれたにもかかわらず映画「覇王別姫」でレスリーチャンがクルクル回るシーンを見て「短冊が一杯付いた変な衣装だな?」との第一印象が強かったので当初は断りました。

後に北京で劇照した時、着れるサイズが無く仕方なくこの衣装を着て劇照したんですが自分の印象が間違いだったことに気が付いたのでその後オーダーして作って貰った物です。

「これって最初に嫌いだと言ってた衣装ですよね?」「え?そ、そうでしたか?あははは」軍師の指摘に笑って誤魔化す蛾衣でした。まあ、実際に着て見て初めて良さが判ることもあるんです。(汗)

チャンさんに言わせると私は不祝儀な芝居の衣装ばかり選ぶそうな。(苦笑)
覇王別姫も悲劇だし白蛇伝も喜劇とは言いがたいしねえ、、ひねくれ者だからハッピーエンドが似合わないと思ってるんで無意識にそんな衣装ばかりを選ぶのでしょうね。「悲劇の主人公は美しい!」と思いますけど皆さんはどうでしょう?

衣装のオーダー

京劇の衣装を作る時難しいのがオーダーの仕方です。
まず、どんな劇のどの役が着ている衣装か決めます。
しかし、場面によって衣装を替える劇が多いので場面も決めます。
次に誰が着ていた衣装かを指定しないといけません。
同じ題名で同じ役で同じ場面でも劇団によって役者によって衣装の色、刺繍など全部違います。
形は京劇の決まり事に沿って作られるので共通なんですが色や刺繍などのデザインは役者の好みによって様々なんです。
更に年代によって流行りがあって同じ役者さんでも当たり役でその演目を十八番にしている場合は特定するのが大変なんです。
ですから一番確実なのはカラー画像を持参してこれと同じ物を作ってと言うのが間違いないでしょう。
例えば日本でも公演が多い「白蛇伝」の主人公「白素貞」の衣装を作るとします。しかし「白蛇伝」は通常7場で演じられ衣装も4度ほど替わります。
そこで自分の好みで「断橋」の場面の衣装で「梅蘭芳」のこの時の衣装と指定してオーダーすることになるのです。
お値段も生地、刺繍の方法(機械、手作業)によって変わりますし派手(刺繍が多い、金糸、銀糸の多用)になれば手間も掛かります。
普通の劇迷が発表会などで使う吊るしなどはサイズが合えば信じられない値段で買えます。(近くで見るとそれなりなんですけどね)
5000元も出せばそれこそ素晴らしい衣装が手に入りますが北京でのオーダーで言葉の問題や京劇に造詣が深く無いと難しいですね。
私は強力な軍師がおりますし助けてくれる友人もおりますのでなんとか成りますけど初めてだと厳しいでしょうね。
でも、心から京劇の衣装が欲しいと思って行動すれば必ず誰かが手を差し伸べてくれます。そんな素敵な世界なんです京劇って。